Story02 『二人の時間』  おきる さん Aquila
02
 前を歩くあいつ向かって、道に積もった雪を少し取って投げつける。
 雪球は当たることなく、横にそれていき、あいつの歩く横へと落ちていく。
 あいつは止まることもなく、歩き続けながら、私の方へ振り返った。
「投げるのが下手なんだからさ……他の人に当たらないように、気をつけろよ〜」
 そう言うと、白い息を吐きながら笑った。
 そしてまた、ゆっくりと前を向き、歩き続けた。
「わ、わかってるわよ! くらえ!」
 私の投げた雪球が、きれいな放物線を描きながら、あいつの後頭部に当たった。
「やった! やっと当たった! やれば私にもできるのさ!」
 私は腕を振り上げて喜んだ。
「いて……うぅ――」
 あいつは、その場でしゃがみ込んでしまった。
「あ……ごめん……」
(私は、何をはしゃいでいたんだろか……)
 私は急いで駆け寄った。
「ねえ……大丈夫?」
 しゃがみ込んだまま、顔を下げて動かない。
「ど、どうしよう……」
 私が慌ててると、下を向いていたこいつが、急に笑い出した。
「はははっ……はは」
「え、え? なになに?」
 状況がわからない私に、こいつは笑うのを止めて、笑みを浮かべながら顔を上げた。
「な〜んってね! 大丈夫、大丈夫!」
「……だ、騙したな! くぅ〜……じゃあ、もう一回!」
「おいおい! 勘弁し……」
 へらへらした顔に、私は地面の雪を、両手でかき上げてぶつけた。

 こうして、今年初めての雪を二人で踏みしめて、学校の帰り道を行く。
 いつからか忘れたが、毎日二人で通い帰るこの道も、すっかり変わってしまった。
 変わらないのは、こうして二人で歩く時間――
 そして、もう一つ変わらないモノがある――
 この先にある踏切≠セ。

 この古い踏切を渡れば、二人の帰り道は分かれる。
 この踏切までが二人だけの時間
 朝、学校へ行く時も、いまこうして、一緒に帰る時間も、この踏切で一旦止まる。

 この踏切が、二人の大切な時間
 ――だと、私だけは思っているのだが、こいつの気持ちは私にはわからない。

 踏切の遮断機が降りて、私達は止まった。
「あのさ」
「え?」
 こいつから何かしゃべり掛けてくるのは、すごく珍しいことだ。いや、初めてかもしれない。
 私は、横に立つ相手の顔を見つめた。
 でも、こいつは真っ直ぐと前を向いたまま、しゃべり続ける。
「あのさ……あのな……おれさ」
 その時、ちょうど電車が前を横切って、何を言ったか聞こえなかった。
「ごめん、何て言ってたか……聞こえなかったよ」
「ううん……やっぱり、いいや」
 頭を掻いて、それで話しを止めた。
「気になるんですけど?」
 少し意地悪に聞き返したが、こいつは顔を横に振った。
 遮断機がゆっくりと上がっていく。
「開いたな」
「うん」
 私達は一歩一歩、前へ歩いていった。
 そして、渡り切った――
「また……また、明日な」
 彼が軽く手を振って、背を向けて歩いていった。
「うん……また明日ね」
 私は彼の背に手を振って、反対の道へと歩き出した。