前を歩くあいつ向かって、道に積もった雪を少し取って投げつける。 雪球は当たることなく、横にそれていき、あいつの歩く横へと落ちていく。 あいつは止まることもなく、歩き続けながら、私の方へ振り返った。 「投げるのが下手なんだからさ……他の人に当たらないように、気をつけろよ〜」 そう言うと、白い息を吐きながら笑った。 そしてまた、ゆっくりと前を向き、歩き続けた。 「わ、わかってるわよ! くらえ!」 私の投げた雪球が、きれいな放物線を描きながら、あいつの後頭部に当たった。 「やった! やっと当たった! やれば私にもできるのさ!」 私は腕を振り上げて喜んだ。 「いて……うぅ――」 あいつは、その場でしゃがみ込んでしまった。 「あ……ごめん……」 (私は、何をはしゃいでいたんだろか……) 私は急いで駆け寄った。 「ねえ……大丈夫?」 しゃがみ込んだまま、顔を下げて動かない。 「ど、どうしよう……」 私が慌ててると、下を向いていたこいつが、急に笑い出した。 「はははっ……はは」 「え、え? なになに?」 状況がわからない私に、こいつは笑うのを止めて、笑みを浮かべながら顔を上げた。 「な〜んってね! 大丈夫、大丈夫!」 「……だ、騙したな! くぅ〜……じゃあ、もう一回!」 「おいおい! 勘弁し……」 へらへらした顔に、私は地面の雪を、両手でかき上げてぶつけた。 こうして、今年初めての雪を二人で踏みしめて、学校の帰り道を行く。 いつからか忘れたが、毎日二人で通い帰るこの道も、すっかり変わってしまった。 変わらないのは、こうして二人で歩く時間―― そして、もう一つ変わらないモノがある―― この先にある踏切≠セ。 この古い踏切を渡れば、二人の帰り道は分かれる。 この踏切までが二人だけの時間 朝、学校へ行く時も、いまこうして、一緒に帰る時間も、この踏切で一旦止まる。 この踏切が、二人の大切な時間 ――だと、私だけは思っているのだが、こいつの気持ちは私にはわからない。 踏切の遮断機が降りて、私達は止まった。 「あのさ」 「え?」 こいつから何かしゃべり掛けてくるのは、すごく珍しいことだ。いや、初めてかもしれない。 私は、横に立つ相手の顔を見つめた。 でも、こいつは真っ直ぐと前を向いたまま、しゃべり続ける。 「あのさ……あのな……おれさ」 その時、ちょうど電車が前を横切って、何を言ったか聞こえなかった。 「ごめん、何て言ってたか……聞こえなかったよ」 「ううん……やっぱり、いいや」 頭を掻いて、それで話しを止めた。 「気になるんですけど?」 少し意地悪に聞き返したが、こいつは顔を横に振った。 遮断機がゆっくりと上がっていく。 「開いたな」 「うん」 私達は一歩一歩、前へ歩いていった。 そして、渡り切った―― 「また……また、明日な」 彼が軽く手を振って、背を向けて歩いていった。 「うん……また明日ね」 私は彼の背に手を振って、反対の道へと歩き出した。 |