Story01 『手』  おきる さん Aquila
01
 放課後の廊下を、すごい速さで走る私達を、すれ違う生徒という生徒が、振り返って見てくる。
「ちょっと……私はいいから、離して……離してよ!」
 私は大きな声で、この赤ジャージ彼女に抵抗していた。

 私の指を掴む彼女は、その声に反応することなく、振り返らずにそのまま走っていく。
 そんな彼女に、私はいままで一番大きな声を出した。
「ねえ〜ねえったら!」
 その私の声に、ピクっと頭を動かし、やっと反応した彼女は、走りながら横目で、振り返ってきた。
「なら、なんでいつも、この廊下の窓から見ていたの?」
 彼女は、私にとっては痛い質問をしてきた。
「そ、それは……」
「私達を見ていたのでしょう?」
「…………」
 彼女の問いに答えられなかった。
 そう、いつも、この廊下の窓から、彼女達が練習するのを見ていたからだ。
「一緒にやりたかったんだよね?」
 彼女はそう言うと、走るのを止めて、そっと私の手を両手で掴んできた。
「やりたかったんだよね?」
「え? ……あ、その……」
 言えるわけがなかった。
 素直に、ここでうなづけば、私も一緒にできる。
 そんな簡単なことでさえ、どこかで踏み止まってしまう自分がいる。
「だから、一緒にみんなの所へいこうよ!」
「で、でも私は……私、準備が……できて」
 いきなり私が行って、受け入れてくれるのものだろうか不安だった。
 そんな不安な表情をした私に気づいたのだろうか、彼女は肩にかけていたバッグを、軽く上にあげて私に見せた。
「ちゃんとアナタのも、用意してあるから」
 彼女は、バッグを肩にかけ直し、再び私の指を強く掴んできた。
「だから、大丈夫! さあ、いきましょう!」
 そして走り出す彼女につられて、私もまた再び走り出す。
「そ、そういう問題じゃないっ――」
 叫ぶ私に、彼女は振り返り、優しく微笑んだ。
 彼女の掴む私の指からもまた、温かく優しかった。

 こうして、私は少し強引――ううん
 かなり強引な彼女に連れられて
 グラウンドへと走っていくのであった。

 強くて、優しい、温かい手に引っ張られて――